−強い企業に生まれ変わるためには“捨てなさい”。
捨てなければ、何も変わらない。−


ISCジャパン審査員 棚田譲二
(5S推進担当)


 急速な情報のオープン化と市場のグローバル化の進展に伴い、過去の経験が必ずしも有効とは限らない21世紀になって早や5年。中小企業経営者の皆さまは経営のむずかしさに直面しておられるのではないでしょうか。この経営の舵取りがむずかしい時代に強い企業として生き残る有効な手法として、私は中小企業の経営者の皆さまに「ISOを活用した5S経営」を提言したいと思っております。以下にその理由を述べますので、ご一読頂ければ光栄に存じます。

 まず、5S経営のポイントをまとめますと、次のようになります。
「ISOを活用した5S経営」のポイント
“捨てる事”で自らの企業変革に着手すべし。この実践なくして会社は変わらない。

5S(ゴエス)を基盤とする企業風土・文化の構築に腐心すべし。

強い企業として生き残るためにはISOの活用が必須かつ唯一有効な手法である。


 以下、ポイントを順次説明します。

“捨てる事”で自らの企業変革に着手すべし。この実践なくして会社は変わらない。

1  「自社の強み」は何かを見直すとき

 20世紀後半の時代がもたらした情報革命はインターネットなどに象徴されるような情報伝達速度の飛躍的向上をもたらしたばかりか、マーケティング・マネジメントの権威・コトラー教授が予測したように、企業規模の大小や企業の所在地が都市か地方かだけで優位差ができる状況を解消してしまいました。これまで大企業にしかできなかった製品・サービスが中小企業にもできるようになったり、都市の企業に有利だった企業機能が、そうでもなくなったりしているのです。
 この事は逆に言えば、「自社にとっての競争優位な点(コア・コンピタンス)」が何なのかの状況が、ひと昔前と様変わりしてきたということでもあります。各企業が拠り所としてきた「自社の強み」をもう一度見直す必要に迫られているのです。
 このような経営を取り巻く環境が変化している中で、熾烈な企業競争に直面している企業経営者は、自社のおかれた状況を正しく認識すると同時に、時代にマッチした企業への大胆な変革への決断を避けて通ることはできないのです。

2  変革は“捨てる”事から始まる

 「時代にマッチした企業への大胆な変革」を成し遂げるにはどうすれば良いのでしょうか? 自社の問題点を洗い出してみても、「洗い出された問題点をどう解決すればいいのか?」ハタと悩んでしまうのではないでしょうか。なぜなら、自社の現状を当たり前とする社内風土・文化に染まりきってしまっているからなのです。変革のためにはこの社内風土・文化の大改革を断行しなければなりません。そのためのキーワードが『捨てる事』なのです。
 「なぜ、捨てる事なのだ。我が社には捨てるものは何もない」とお考えかもしれません。しかし、よく見回してください。経営資源である〔人・物・金・情報〕にまつわるさまざまな不要物が見つかるはずです。これら不要物が社内に閉塞感をもたらし、新しい発想の芽を摘み、強い企業への変革を妨げているのです。
 不要な経営資源とは、新しいものを産み出さず自慢話でしかなくなった「かつての成功体験」であり、「今や古びてしまった社内システム」、昔は高性能だったのに今や「時代遅れの機械類」等のことであり、あるいは「悔しさの残るバブル期の死に金」や、使いもしないのに「後生大事に蓄えている役に立たない大量の情報」などなのです。これら不要な経営資源が社内の金を生み出す場所を占領し、幹部や従業員のやる気をなくしているのです。

3 捨てる事を決断する

 これらの不要なものを捨てると空間(場所)が生まれます。すると、この空間を埋めたくなります。新しいものが生まれるのです。この新たなもので埋めようとする発想こそ、これからの企業が必要とする「新しいアイデア」であり「積極性」「組織力」「企業力」なのです。当然ですが、新しい発想のためには、新たな情報・経験に裏打ちされた知恵・技術が必要です。新たな行動力が出てきます。
 決断してください。「捨てる」決断が必要なのです。「将来、困ることにならないか」「どこに捨てればいいのだ」「再調達できるのか」などなど、さまざまな思いが駆けめぐるでしょう。だが、これらは迷いであり、決断は勇気であり、知恵なのです。
 捨てなければ何も変わりません。捨てれば、新たな情報が入手でき、新しい発想が生まれ、新しいチャレンジ精神も湧いてくるのです。

 貴社はどちらを選びますか?

5S(ゴエス)を基盤とする企業風土・文化の構築に腐心すべし。


1 「強い企業」とはどのような企業か?

 「強い企業」とはどのような企業なのでしょうか。金のある企業、従業員の忠誠心の強い企業。たしかにそれらも強い企業です。しかし、現代では企業を評価するのは企業を取り囲む人々、つまり消費者を代表とするその企業の利害関係者、ステークホルダーと呼ばれる人々です。ステークホルダーは、その企業が「どれだけの社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を果たしているか」という尺度で評価します。
 では、社会的責任を果たす企業とは、どのような企業なのでしょうか。当然のことながら社会の要求する製品・サービスを提供することができ、法律やルールを守り、誰からも信頼される企業であるということです。まさに「当たり前のことをキチンと実践できる」企業が求められているのです。中小企業とて例外ではありません。
 しかし、経営者にはよくわかっていることですが、全社員が「当たり前のことをキチンと実践できる」ようになることは容易なことではありません。これは企業規模の大小に関わりません。毎日のようにニュースで話題になる不祥事の発生がこれを実証しています。いかに急成長を遂げた成功企業でも、法律の不順守・個人情報の漏洩・異物の混入・顧客対応の不適切などなどが原因で、社会的に廃業状態に追い込まれた企業が数多くある事実は、企業基盤として何が本当に大切かを物語っています。「強い企業」とは、「当たり前のことをキチンと実践できる」企業なのです。
  では、どうすれば「当たり前のことをキチンと実践できる」企業基盤が作れるのでしょうか。何もむずかしい理論は必要ありません。整理・整頓・清掃・清潔・しつけの5S(ゴエス)が社内風土・文化として定着できればいいのです。

2 5Sは純日本産の企業力強化ツール

 5Sとはローマ字の“S”で始まる5つのことば〔整理・整頓・清掃・清潔・しつけ〕のことで、この5Sには個人の日常生活においても企業経営の進め方においても重要なエッセンスが過不足なく盛り込まれています。この5Sのもつエッセンス(思想)の起源をさかのぼると、遠く室町時代に日本に伝わった禅宗にたどり着きます。5Sは『禅の直系の子』であり、本来は日本文化そのもののはずでした。が、戦後の教育や労働力の国際化に伴って忘れられていたのです。しかし、今日すでに諸外国では5Sを経営に取り入れて成功している企業も多く、米国を始め、韓国・タイ・インド等にも広まっています。
 改めて5Sの5つのことばの意味を整理すると、以下の表に示すようになります。
5S 定    義
整理(Seiri) 要るものと要らないものを区別し、要らないものを捨てること。
整頓(Seiton) 要るものを所定の場所に置き、誰にでもすぐに取り出せること。
清掃(Seiso) 身の回りや職場を常に掃除し、使用前の状態にすること。
清潔(Seiketsu) いつ誰が見ても誰が使っても不快感を与えぬように整理・整頓・清掃の3Sを維持すること。
躾(Sitsuke) 決められたルールを守るように習慣づけること。


・整理とは”捨てる事“そのものであり、整理によって社内の変革を進めるものです。
・整頓とは、無駄のない速やかな仕事ができる環境を作ることです。
・清掃とは身の回りの“点検”をすることで、不具合な箇所を発見することです。
・清潔とは、以上の整理⇒整頓⇒清掃がキチンと実施できるようにルール化(=標準化)することです。
 ・ しつけ(躾)とは、決められたルールをキチンと守って効率的で創造的な仕事ができるシステムが整っていることを確認し、問題があれば是正することです。

 経営の基本はPDCA(Plan=計画,Do=実行,Check=チェック,Act=アクト)のマネジメントサイクルを正しく回すことですが、5SそのものがPDCAのマネジメントサイクルに従ったマネジメントシステムなのです。

強い企業として生き残るためにはISOの活用が必須かつ唯一有効な手法である。

1 5Sを補強するもの

 やれば必ず効果の出るのが5Sです。ですから、5S実践の対象部門や箇所は自動化された仕事場より、人が多く介在する職場です。なぜなら、完全に機械化・自動化された箇所は5Sの必要がないからです。少しでも人がいる職場こそ、5Sは効果を発揮します。人には“甘え”があり、どうしても整理・整頓がおろそかになりやすいからです。
 そこで、5S活動が導入されるわけですが、当初は順調に効果を発揮します。しかし、職場全体で5S活動を継続するに従って、今度は5S活動そのものに“甘え”が出てきます。「このくらい整理しておけばいいだろう」「あした整理すればいいだろう」という心が出てきて、結局はそのままにしてしまう。これが5S活動に対する“甘え”です。
 5Sを実践・推進している企業の経営者に共通する思いは「5Sを実践すると、すぐに効果が出て張り合いが生まれる。しかし5Sを2年、3年と継続するのは何とむずかしいことか」という1点に集中しています。5Sの効果を知っていながら、継続することがむずかしいのですから、人間はよほど“甘え”が好きなのでしょう。
 5Sの継続を確実に推進するにはどうしたらよいのでしょうか。「強いリーダーシップを持った経営者と経営幹部」が必要です。5Sの推進を確固たるものにするルールも有効でしょう。しかし、それだけでは足りません。ISOの査察システムを活用することこそがそのカギなのです。

2  「強い企業」への変革のカギはISOにあり

  ISO(International Organization for Standardization)は国際的に認められた制度です。そして、ISOは5Sに対する“甘え”を断ち切る道具として最適なのです。品質マネジメントシステムISO9001なり環境マネジメントシステムISO14001の認証取得をすると、年2回の査察が行われます。このとき、5Sで培ったマネジメントシステムの必要なところだけをISOの要求に合わせておけば、査察のときにチェックが入ります。しかも、そのチェックは国際的な機関の客観的な第三者によるチェックなのです。5Sを社内風土・文化として定着させるには、ISOのシステムを活用することが最良の戦略なのです。
  これはまた、5Sの中の「躾(しつけ)」をしていることでもあります。企業の作り出す製品・サービスに合わせてISOのマネジメントシステムは構築されますが、その実行における確実性を保証するものは、ISOの査察(サーベランス)というシステムなのです。いかに“甘え”好きでも、ISOのマネジメントシステムの査察があることを意識すれば、必ず5Sが徹底・継続され、5Sが徹底・継続されれば、いつの間にか「当たり前のことをキチンと実践できる」「強い企業」に生まれ変われるのです。

 以上、私のこれまでの経験から得られた提言をぜひご理解いただき、貴社の企業力強化のために5S及びISOが有効に役立つならば、たいへんうれしく存じます。

(平成17年6月)